談山神社

僕は自分で言うのもあれだが、かなり自信過剰なところがある。

どんなにすごい人でも、素直に自分の負けを認められないのだ。

これが成長できない所以であり、腹黒と呼ばれる原因であることは自覚している。

そんな僕が唯一何をやっても勝てないと思った友人がいた。勉強の成績は僕の方がよかったが、そんなことは霞んでしまうほど人としての魅力にあふれていた。

名をS藤君という。

同じ学校に通っていたのは中学の三年間だけだが、その三年間には僕が今まで経験した楽しい思い出のすべてが詰まっている。

毎朝教室の前の廊下から向かいのコンビニ(オレンジハート)に向かう女子高生(五農)の短いスカートを変態観測と称してひたすら眺めたり、音楽の授業の前に全速力で音楽室へ走りガガガSPの「卒業」を熱唱したり、K村君という友人からひたすら逃げ回ったり、どこをとってもくだらない思い出だが、そのすべてが今でも目を閉じれば浮かんでくるように輝いている。

S藤君とは、よく僕の部屋で話をした。寒い五所川原の冬に炬燵に入りながらいろんな話をしたものだ。野球の話、進路の話、女の子の話。

野球の話になると僕らは熱くなってしまい、軽く喧嘩をした。

それでも、いろんな作戦やトレーニング方法を馬鹿みたいに話し合っていた。

僕とS藤君は一番、二番を打っていたのだが、S藤君が出塁したときに、秘密のサインでバスターエンドランを決めたことは僕の野球人生のハイライトだ。

僕が初恋の女の子に振られたときに家まで来て話をしてくれたのもS藤君だ。

その一方で、S藤君がかわいい女の子二人を相手にしているときにお目当ての女の子以外の相手をするために彼の家にお呼ばれしたのが僕だ。

正月には決まって朝までカラオケに行き、雪で真っ白な道路のど真ん中で、その年の初めてのキスを何度か奪われたこともある。

すごく長くなってしまった(まだまだ語りつくせないが)が、僕が言いたいのはただ一つ彼が親友だったということだ。

 

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多武峰奈良県中部に位置する山である。そこには談山神社と呼ばれる神社がある。

緑が生い茂る山を抜けたところに、朱色に染まる社殿がそびえる何とも美しい神社である。

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この美しい神社が「談山神社」と呼ばれるのは、歴史上の人物のエピソードに由来する。

世に有名な「大化の改新」を成し遂げたのは中大兄皇子中臣鎌足であったのは皆さんご存知であろう。

当時、たいそう悪さをしていた蘇我入鹿蝦夷の親子の悪行に堪忍袋の緒が切れた中大兄皇子は、二人を討つ決意をする。そのパートナーに選ばれたのが中臣鎌足だ。

二人は蹴鞠の時に出逢い、価値観を共にする無二の親友であった。

謀は秘をもってなすものであり、二人はこっそり隠れて戦略を練り、見事大化の改新を成し遂げた。談山神社には教科書に載っているこの絵も収蔵されている(レプリカしか見れないが。)。

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このとき二人が談合を重ねていたのが多武峰であり、それゆえにこの神社は談山神社と呼ばれている。

二人はどんな話をしていたのだろうか。

きっと

なかの「うちの召使の中にめっちゃかわいい子いるんだけどー。でも身分が違うからなー。」

なかとみ「身分なんて関係ねーよ。好きなんだろ。自分の心に素直になれよ。」

なかの「だよな。。俺の人生だもんな。」

なかとみ「なんだよ、答え出てんじゃん♪」

的な話もしてたんだろうな。

中臣鎌足が病に伏せ最後を迎えようとしているときに、中大兄皇子(この時は天智天皇)は最高の敬意を払い鎌足に藤原の姓を授けた。最後まで二人は親友だった。これが後の藤原氏となるのは有名な話。

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僕が談山神社を訪れた日は雨だった。

遠い所へ行ってしまった親友のことを想う僕の代わりに、

生い茂る木々が涙を流しているようだという気障な物思いにふけった。

そんな雰囲気の談山神社である。

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